これによれば経産牛1頭当たりの牛乳販売収入は都府県の全体値で、平成元年度以前は概ね60万円台の後半で推移していたが、平成元年度以後は70万円台で推移している。平成9年度には76.0万円に達した。その要因を長期的にみれば、経産牛1頭当たりの産乳量の動向の影響を受けたものである。産乳量は昭和60年度に6,000s台の大台に達した後、順調な増加を示し、平成元年度から3年度までの3年間は6,800s台で推移した。平成4年度以降は7,000s台の水準にあり、平成9年度は7,822sと過去最高の数値となっている。しかし、最も高い産乳量を実現した平成9年度ではあるが、過去の牛乳販売収入が最大であった平成4年度と較べてわずかの増加に止まっていることは、乳価水準の低下を反映していると理解される。なお、参考までに農林水産省の「農村物価統計」によると、平成時代に入ってからの生乳1s当たりの乳価水準は、平成元年度には90.9円(全国)であったが、その後も低落傾向をたどりつづけており、平成8年度は85.8円、平成9年度には82.3円となっている。牛乳販売収入の増加のためには、産乳量水準の向上に期待するしかないといえる。
 子牛・育成牛・肥育牛その他販売収入は、経産牛1頭当たりで平成元年度の10.4万円を最高として、4、5年度の3万円台を底として、8、9年度にはやや上昇し5万円台となっている。平成年代に入ってからの、こうした現象は牛肉自由化の影響が大きく反映したことを物語っている。
 一方、費用の面では、購入飼料費が昭和63年度から5年連続の上昇傾向が平成5年度で一旦止まり、減少傾向をみせていたが、8、9年度は上昇に転じて36万円台に達している。その他の主要費目では、労働費が昭和60年から平成5年度までの間およそ15万円前後の水準で推移してきたが、平成6年度以降は16万円台に上昇している。その他の費目についてはそれほど大きな変化はみられないものの、平成8、9年度の生産費用額全体は81万円台となっている。特に8年度で7年度よりも5万円近い大幅な上昇を見せた。
 このような生産費用額は、費用額の40%以上を占める購入飼料費の動向に大きく影響される。平成4年度以降は低下の傾向を示していたが、8、9年度は7年度からみて大幅な上昇となっている。
 こうした傾向を受けて乳飼比は、平成3年度の47%台をピークとして、その後はやや低下を示していたが、8、9年度ともに47%台となっている。所得率は、昭和61年度から平成元年度まで4年間30%台の水準を維持していたが、平成2年度以降は低落傾向が続いている。それでも7年度までは20%台の水準を維持していたが、8、9年度は19.4%へと大幅な下落を示した。
 経産牛1頭当たりの所得額では、平成元年度の25.4万円をピークとして急激な収益性の低下を示し、平成3年度から7年度までの5年間は17、18万円台であった。しかし、8、9年度には15万円台にまで低下している。
 このような平成3年度以降の収益性の大幅な悪化は、経産牛1頭当たりの産乳量の増加にもかかわらず、乳価の引き続く低落傾向と、平成3年度からの牛肉輸入自由化による子牛・育成牛・肥育牛等の販売収入の大幅な減少といった、2点がその主要因である。
 経営類型別にみた家族労働力1人当たり年間経常所得は、平成8年度は前年よりも草地依存型、耕地依存型、流通飼料依存型の3類型とも減少している。特に、耕地依存型と流通飼料依存型の減少が著しい、平成9年度では、草地依存型と流通飼料依存型が8年度に対して小幅な増加を示したが、耕地依存型では減少を続けている。
 家族労働力1人当たりの年間経常所得や、経産牛1頭当たりの年間経常所得において、概ね耕地依存型が最も収益性が高く、他の2類型との格差が生じている。


  

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